少し前のお話になってしまいますが、昨年の暮れ18歳まで自分が育ってきた施設で年末年始を過ごそうと、久しぶりに施設に帰省した子どもがいます。帰省した理由には、施設の子どもや職員の方々が自分の帰りを待ちわび、皆に囲まれて、温もりある雰囲気の中で仕事の愚痴や苦労話を聞いてくれるだろうと胸を躍らせながらの帰省。ところが、自分が描いていた様にはいかなかったようです。仲が良かった友人と久しぶりに会ってみると距離ができて想いがチグハグだったり、信頼する職員の方は在園する子どもとの関わりで忙しく話をする時間もない・・・そんな状況の中、その子は自分の居場所はここ(帰省した施設)には無いと思い込み、もう誰も信用できないと、自分が幼い頃より育ってきた施設を否定しながら帰ってきました。彼の情緒不安定の原因はいったい何なのか!?その原因は、彼の育ってきた施設にあるのではなく、彼の心の奥にある傷、幼い頃の育ちにあるのです。幼い頃に両親から受けた身体的虐待や養育放棄そして家庭損失。自分の身近な人に大切にしてもらえなかったというつらい経験や思い出は、今でも彼の心の傷として深く残り、癒えることはないのです・・・。「家族に甘えたい、褒められたい、愚痴や文句も言ってみたい」と思う一方、「自分を傷つけ、否定してきた両親を許さない。」という二極化が起こり、それが対人関係やコミュニケーションでのつまずきに繋がり、自己嫌悪に陥らせます。このスパイラルから抜け出すにはどうしたらいいか・・・これまで何度も自分でも思い、考え、悩んできたはずです。しかし、心の傷を癒すには、まだまだ時間はかかります。長い目で彼と関わりながら、関係を切ることなく支援をしていくことが必要なのです。 情緒不安定で帰宅した、彼がその後どうなったか・・・疲れも重なり、帰宅直後から体調を崩し発熱、風邪をひいたのでした。リビングに姿をみせることはほとんどなく、スタッフが部屋に声をかけにいっても返事はなし・・・。そして、自室に引き籠ってから二日後のことでした。「喉が痛いなら、おかゆでも食べる?」と、心配をしたスタッフが声をかけにいくとドアが開き、ニコッと笑顔で、「うん、卵入りのやつ」と応え、ドアが閉まりました。リクエストの卵入りのおかゆと、殺菌効果のある梅干しを作り持っていくと、手を合わせて、「ありがとう。本当にありがとう」と嬉しそうに食べていました。そこからは体調も、気分も良くなり快方へ・・・すると、彼の口から自然と言葉が溢れてきます。これまでの不安や人間関係のことでの愚痴がたくさん・・・。心の風邪には、卵入りのおかゆが心に響きます。そして、そう遠くない未来に、ここから巣立っていく彼らを想像した時、「ここで暮らしている間に、安心できる人や居場所をみつけられるといいな」と願います。「仕事で愚痴をこぼしたくなった時、人間関係に疲れた時には、休みをもらって顔を見せに帰っておいで。いつでも待っているからね」と、旅立ちの時に言ってあげられるように。今できることを、私たちスタッフはやるだけです。
心の風邪には・・・